新刊レビュー ~東北の本棚より~
河北新報ブックレビューさん

2015/11/28 10:00 地域の魅力 , カルチャー

『人物でたどるエスペラント文化史』後藤斉 著/国際語通し親交結ぶ

 エスペラント語は、国や民族の境を越えた共通語として19世紀に提唱され、その後百数十年にわたって世界各地で実践されてきた。日本、仙台においてはどうか。エスペラントの人脈、文化史の流れをたどった。

 ポーランドの著名な女性作家、エリザ・オジェシュコヴァの小説「寡婦マルタ」を、エスペラントの提唱者ザメンホフ自身がエスペラント訳して、世界に紹介した。女性の地位の不安定さを生々しく描いた。

 これは日本語に重訳され、宮本百合子(作家)、寿岳章子(国語学者、東北帝大出身)、中川李枝子(児童文学作家)ら多くの女性に影響を与えた。

 仙台では土井晩翠の長男、英一(1909年生まれ)がいる。幼少から英才とうたわれ、旧制仙台一中時代にエスペラントを独習した。東北帝大法文学部に進学、国際語を通じて世界の人々と親交を結んだ。

 特に熱心に取り組んだのが「慈善切手」である。投書が30(昭和5)年10月9日の東京日日新聞(現毎日新聞)に掲載された。「例えば一銭五厘を二銭に…。その付加額を慈善の目的に使用する」という。文通を介して西欧諸国に慈善切手の制度があるのを知り、日本でもつくろうと呼び掛けた。

 英一は24歳の若さで病死したが、37年に「愛国切手」として実現、現在の「寄付金つき切手」に至る。英一は慈善切手の収益を、ハンセン病患者の施設整備に充てるよう構想した。ハンセン病患者の中には、外の世界にコミュニケーションを求め、学習、実践する動きがあった。

 民俗学者、柳田国男のエスペラント活動も詳しく述べている。この言語を通して、うずもれた近代史を発掘するのが本書の特徴だ。

 著者は55年仙台市生まれ。東北大大学院言語学教授。

 日本エスペラント協会03(3203)4581=1620円。

=2015年11月23日付河北新報朝刊「東北の本棚」掲載分=